2009年6月28日日曜日

FMトランスミッタ: プリエンファシス(1)

1.あらまし
 FM変調方式の受信機の音声出力の雑音スペクトラムは、周波数に比例して高音域ほど大きくなるので、高音域ではS/N比が悪くなってしまいます。このため、あらかじめ送信機(放送局)で高音域の変調度を強調(プリエンファシス)しておき、受信機では逆特性(ディエンファシス)を持たせています。この操作により送受を通した音声信号の周波数特性はフラットになりますが、受信機で発生する雑音はディエンファシスされた分だけ下がるので総合的なS/N比が改善されます。

 送信機(トランスミッタ)では、プリエンファシスを実装して高音域のレベルを持ち上げることになり過変調が心配です。これは、人間の声や自然界の音には高音域のエネルギー分布が少ないから問題なし、ということになっているものの、現代の音楽ではシンセサイザー楽器が多用されていることもあり高音域までそれなりの信号が出ています。このため、FM放送用の音声リミッタ(メジャーどころではOrban社OPTIMODなど)はプリエンファシス特性を考慮したものが使われています。


2.プリエンファシス特性
 プリエンファシスの周波数特性は、次式によります。


ただし τ: プリエンファシスの時定数


 日本やヨーロッパのFM放送の時定数は50μs。アナログテレビ放送の音声やアメリカのFM放送では75μsと決められています。

 ※初めてMicrosoft Office付属の「数式エディタ」を使いました。これ便利。
   今まで無理矢理ワープロ打ちしていたのは何?って感じ。



理想的プリエンファシス特性
1kHz基準の場合








 上のグラフは、プリエンファシスの式をもとにエクセルで描画させたものです。便宜上1kHz基準にしてあります。100Hzで約-0.4dB、15kHzでは約13.3dBの周波数特性を持っています。


3.プリエンファシス回路 ディスクリート部品によるプリエンファシス回路としては、抵抗とコンデンサ、抵抗とコイルの組み合わせたものがあります。
                        



プリエンファシス回路(a)













プリエンファシス回路(b)









 FMトランスミッタのキットなどでは抵抗とコンデンサを組み合わせた(a)の回路がよく使われています。一方、(b)の回路は安藤電気のステレオ信号発生器で使われているのを見たことがあります。確かにコイルの方がコンデンサよりも経年劣化要素が少ないのかもしれません。






新日本無線 ステレオモジュレータICNJM2035のプリエンファシス回路
まだ現役なんですね












ローム ワイヤレス・オーディオリンク ICBH1417のプリエンファシス回路

プリエンファシス回路はオペアンプのフィードバック回路に組み込まれています。内部の22.7kΩと2200pFの組み合わせで約50μsの時定数を得ています。

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